トワツガイコンサート2024ファンアートコンテスト（ストーリー部門）参加作品です。
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【追記】
※夢中説夢の世界+魔獣が存在していない、双子（双子ではない）がそもそもトリになっていない、という独自設定が加わっています。平和時空パロを書き過ぎて注釈を忘れていました。大変失礼しました。
※鈴々の一人称が「ボク」ではない世界
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「鈴々ちゃーん！」
名前を呼ばれて顔を上げると、菜々が手を振りながらこっちに走ってくるのが見えた。
「ごめんね、遅れちゃったかな？」
「ううん、時間ぴったりだよ」
息を整えている菜々のつむじに向かってそう言って、視線を下ろす。
水色の布地に白いドットが散りばめられた、水玉模様のワンピース。風に吹かれた裾がひらひらと揺れている。
……うん、やっぱり菜々はかわいい。すごくかわいい。……私よりも、ずっと。
双子コーデがしたいと言い出したのは、菜々のほうだった。
「わあ！ その服かわいい！」
私が読んでいた雑誌を後ろから覗き込んだ菜々が、無邪気にそう言う。
「うん、かわいいよね」
普段はかわいいものが好きなことを隠している私だけれど、菜々とふたりきりのときだけは、素直にかわいいものをかわいいと言える。
「ねえ、これ、ふたりでお揃いにしてお出かけしようよ！ 双子コーデ？ っていうの、してみたい！」
「えぇ……私はいいよ……菜々は似合うだろうけどさ……」
「えー？ わたし、鈴々ちゃんと双子コーデ、したいなー」
いかにも気が乗らないという声で難色を示す私を、菜々が下から、んー？ と上目遣いに見つめてくる。
……菜々にこういう顔をされると、私は弱い。
「はあ……わかったよ、もう」
「やったぁ！ わたし、帰ったらお母さんにお願いしてみるね！」
「うん、私も……お年玉貯金を使わせてもらえば、たぶん、なんとかなると思う」
「えへへー。鈴々ちゃんと双子コーデ、楽しみだな～」
本当に嬉しそうにそう言う菜々を見て、私も、ちょっとだけ楽しみにしてもいいかもしれないなって、そう思った。
そして、今日。約束したお出かけの日。
待ち合わせ場所にやって来た菜々に、水色のワンピースはとてもよく似合っていた。
私とお揃いのワンピース。それに、お揃いの靴と、お揃いの鞄。
「せっかくだから、お洋服以外もちゃんと全部お揃いにしようよ！」
菜々がそんなことを言うから、こうなった。
服も靴も鞄も、それを身につけている菜々も、すごくかわいい。
でも……、
「鈴々ちゃん？ どうかした？」
「ううん。やっぱり菜々のほうが似合ってるなって」
「えー？ そうかな？ 鈴々ちゃんも似合ってるよ、そのワンピース！」
「そんなわけないじゃん……」
菜々を待っている間だって、通り過ぎる人たちに変な風に思われてるんじゃないかって、居心地が悪くてしょうがなかった。
いっそのこと、なにか理由をつけて帰ろうかとも思ったけど、そんなことをしたら余計にみじめな気持ちになりそうだったから、うつむいたまま菜々を待ち続けた。
「鈴々ちゃん。ちょっとそのまま、じっとしててくれる？」
「え？ うん」
突然、真剣な声でそう言われて。
言われたとおり、その場でじっとしていると、菜々がこっちに顔を向けたまま、私の周りをぐるぐると回り始めた。
「な、なに……？」
「動いちゃだめ」
叱られた。それも結構強めに。
菜々は私から視線を外すことなく回り続けている。
ぐるぐる、ぐるぐる。
「なんなの……？」
「んー………うん！ もう動いていいよ！」
眉間にしわを寄せていた菜々の表情がぱあっと明るくなった。なんだかやたら満足げに見える。
「あのね、今よく見て確認してみたんだけど」
「うん」
「やっぱり、鈴々ちゃんはすっごくかわいいよ！」
満面の笑みでそう言う菜々に、自分の顔がかあっと熱くなるのがわかった。
菜々は本当に、本心から私を『かわいい』と思ってくれている。
裏表のない、純粋な言葉。嘘じゃないってわかるから、拒絶できない。真正面から受け止めるしかない。
さっきまで嫌な気持ちが胸の中で燻っていたのに、それが綺麗さっぱりどこかに行ってしまった。
たぶん今、私は首筋からほっぺたまで、ううん、きっと耳まで真っ赤になっている。
それについてなにか言われる前にと、私は菜々に向けて手を差し出した。
「ほら、はやく行こう。まずは映画を観るんでしょ」
「うん！ 今日はいっぱい、ふたりで楽しもうね！」
菜々と手を繋いで、ふたりで街を歩く。
ばればれの照れ隠しだったはずなのに、菜々はなにも言わない。
双子コーデがしたいと言い出したのだって、きっと、私がかわいい服を着られるように気づかってくれたんだと思う。
かわいくて、優しくて、純粋で――いつも私のことを一番に考えてくれる、私の大切な友達。
だから、その大切な友達と、今日はめいっぱい楽しもう。
胸のうちでひそかにそんな決意をしつつ、私はお揃いの靴の踵を鳴らして、次の一歩を踏み出した。
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映画館を出た途端、わたしのおなかから『くう』と音が鳴った。
「おなかすいたの？」
「そうみたい」
「クレープでも食べる？」
鈴々ちゃんが指差している先を見ると、少し離れたところにクレープ屋さんがあった。
ふたりでそばまで歩いていくと、奥からおいしそうな甘い匂いが漂ってくる。
「どれにしよっか」
「んー、わたしはイチゴが乗ってるのがいいかなあ……あ、そのチョコとバナナのもおいしそう！」
「じゃあ、私はそれにしようかな。ふたりでわけっこすれば、両方食べられるでしょ」
「鈴々ちゃん、頭いいね！」
「いや、この程度のことで褒められると、逆に複雑なんだけど……」
お店の人からクレープを受け取って、近くのベンチにふたり並んで腰を下ろす。
お揃いのワンピースを汚さないように気をつけながら食べ進めていると、歩いている人たちの会話が聞こえてきた。
「ねえ、みてみて。あの子たち、全身おそろっちだよ。かわいい～！」
「ホントだ！ 姉妹なのかな？」
隣に座っている鈴々ちゃんのほうをこっそり見てみると、ほっぺたが本当によく見ないとわからないぐらい小さく、ぷるぷると震えていた。
これはたぶん、ううん、絶対『かわいい』って言われて喜んでる顔だ。鈴々ちゃんはこういうところが本当にかわいい。
「鈴々ちゃん、そっちのひと口ちょうだい？」
「あ、うん。鞄、代わりに持ってるから――」
「あーん」
「え？」
「ほら、あーん」
鈴々ちゃんが戸惑っているのが伝わってきたけれど、わたしはあえて知らないふりをする。
「もう、しょうがないなあ……はい、あーん」
「……んー！ おいしい！」
「そう。よかったね」
「はいっ、どうぞ！」
「えっ？」
「次は鈴々ちゃんの番！ ほら、鈴々ちゃんもあーんして？」
「わ、私も！？ そんな、こ、恋人同士じゃないんだからさ……」
「はーやーくー」
ちょっと意地悪かもしれないけれど、今はなんだか鈴々ちゃんに甘えたい気分だった。
「うう………あ、あーん」
「はい、あーんっ！……どう？ おいしい？」
「うん……すごくおいしい。クレープ、今度うちでも作ってみようかな」
「わー、楽しそう！ わたしも一緒に作っていい？」
「いいよ。……菜々と一緒にお菓子作りするのは、嫌いじゃないし」
鈴々ちゃんは素直じゃないなあ、と思ったけれど、口には出さなかった。
ちょっぴり照れ屋で、すっごくかわいい、わたしの大好きな友達。
そんな友達とお揃いの格好をして、同じものを食べられる幸せを嚙みしめながら、わたしは次のひと口を味わうべくクレープにかぶりついた。
そうしたら鼻先にクリームがついて、鈴々ちゃんに笑われてしまったけれど。
でも、その笑顔がやっぱりとってもかわいかったから、わたしは『自分のひと口が大きくてよかったなあ』と、のん気にそう思ったのだった。