初参加～。
特にやまも落ちもなく、のんびりした感じの双子と保護者運命のハロウィンの一コマを書いてみました。
【ハロウィンの終わりに】
　最後の一人であるモズを捕まえて、エナガがクッキーを渡す。
「ふうん、お菓子をもらうのではなく配っているんだ。もの好きだねぇ」
「いつももらってばかりなので、今回は私たちが作ってくばろうって思って」
「僕たち、ちいさいからいつも何かしてもらってばかりだけど僕たちにもできることがあるから」
　お茶会の途中でふといなくなってしまったモズをツバメの言葉を頼りに探しに行くと見事本人に遭遇できた。目的を無事果たすことができて小さな二人は元来た道を引き返し、ハロウィンのお茶会が開催されていた食堂に向かう。
「終わっちゃったね」
「うん」
　この日までスズメとエナガはみんなに配り歩くお菓子のデザインや普段作らない量をどうやって作っていくか、そのために必要なものや、仮装をどうするかなど、様々なことを自分たちで考えて準備してきた。今年は仮装もそんなに凝ったものではなく、ヘンゼルとグレーテルのイメージで双子が普段着ている洋服にフラミンゴやカラスが少し手をかけてくれて、用意したものだ。
　そんなにぎやかなハロウィンのイベントが終わった後のちょっとしたお話。
　二人で手を繋いで食堂に戻ると、お茶会の時のにぎやかさとは対照的にガランとした空間が広がっていた。もう片付けもあらかた終わってしまったのだろうか。「エナガ、少し疲れたでしょ。ココア入れよっか」「うん、スズメの作るココアおいしいから好き」　そのまま手を繋いで食堂のキッチンに向かう。すると誰かがいる気配がした。この匂いは。ひょこっとのぞき込むとそこにはカラスとハクチョウさんがいた。「おっ、戻ってきたか」「エナガちゃん、スズメちゃん、おかえりなさい」　人がいたことに少しばかりほっとして。「ふたりともどうしたの」「きれいに片付いていて、皆さんもう解散したのかと思っていました」「戻ってくるって言ってたからな。誰もいなかったら味気ないだろ」　そっけなく、そんな言葉を返してくるけれど、なんだかうれしさがこみあげてきた。カラスのくせに。言葉には出さなかったけど。「これからスズメとココアを入れようと思っていたんです。カラスさんとハクチョウさんも飲みませんか？」「スズメちゃんのココアとてもおいしいですもんね、ぜひ頂きます。ね、カラス？」「おう」「じゃあ、ちょっと待ってて」　僕はいつものようにミルクとココアを用意してエナガは４人分のカップを準備する。カラスとハクチョウさんはさっきから何か作っているみたいで、オーブンの待ちだろうか。　ハクチョウさんはニコニコとこちらを見ているのでちょっとばかり気恥しくなってしまう。　計ったココアと砂糖を鍋に入れ、少しのミルクを入れてペースト状になるように丁寧に混ぜていく。隣でいつものようにエナガじっとその様子を見ている。もう少ししたらエナガが少しずつミルクを加えてくれるはずだ。　弱火で焦がしたり沸騰させたりしないように丁寧に作業をしていく。きれいなペーストができたのでエナガの方を向くと、コクリとうなずいてミルクを小分けにして入れてくれるから、僕はペーストを溶かし込むようにゆっくりと混ぜていく。これを２，３回に分けて混ぜると甘い良い香りとおいしそうなチョコミルク色のココアが出来上がる。「２人とも、渡したい相手には全部配れたのか？」「はい！モズさんにも無事会えました！」「ツバメさんの言った通りだったよね、ちゃんといたよ」「ふふ、モズさんお優しいですから、ふたりからだったら喜んで受け取ってくださったんでしょうね」　僕はエナガと一緒にココアをカップにうつし始める。するとオーブンのタイマーの音がした。「おっ、できたか」　そして、こっちもココアが無事出来上がった。「ココアできました！」「先にテーブルの方いっててくれ」「じゃあ、カラスの分も私が持ちますのでテーブルの方に行きましょうか」　ハクチョウさんにそう促されてエナガと一緒に素直にテーブルに向かった。「ねぇ、カラスは何を作っているの？」「もうお茶会終わっちゃったけど、お菓子かな？」「さぁ、どうでしょうね」　そう言うハクチョウさんの表情はにこやかだ。僕とエナガは隣に座り、エナガの向かいにハクチョウさんが座った。「あ、お二人とも待たずに温かいうちに召し上がってくださいね」「カラスさん、時間かかるんですか？」「いえ、すぐ来ると思いますので」　僕とエナガはできたばかりのココアに口をつける。甘さがふわっと口の中に広がり、ほっとした気持ちになる。「やっぱりスズメの作ったココアはおいしいね！」「そう？　ありがと」　少し照れくさいけどエナガに喜んでもらえるのがうれしい。　するとカラスがこちらに合流した。「おまたせ」「せっかくスズメちゃんが用意してくれたので温かいうちにいただきましょう」「うん」　そう言ってカラスとハクチョウさんがカップに口をつけるのを少しドキドキして見ていた。「うん、うまいね」「ほんとうに、スズメちゃんとエナガちゃんのココアは飲んでいてホッとしますね」「えへへ、スズメ、褒められたよ！」「あ、うん、ありがと」　カラスにこういわれるとなんだか調子がくるってしまう。「それより、二人ともハロウィン、お菓子配るだけでほんとによかったのか？」　そんなカラスの一言に二人はどう思うのでしょうか。スズメちゃんはギフトのこともありますが周りの様子を敏感に感じ取って、周りの状況をしっかりと把握できる聡い子です。エナガちゃんもまっすぐだからこそ、時々物事を年上の私たちよりもよほど鋭く感じ取ることがあります。果たしてカラスが考えたことが予定通りいくでしょうか。「えっ」「それはお菓子をもらえるってこと？」　二人は予想もしなかったという感じで。「でもカラスもハクチョウさんも手ぶらじゃん」「あっ、もしかして」　カラスは二人が気づいたらしいことに、にやりとしました。私も思わず表情に出てしまっていたのではないかと思います。　スズメちゃんとエナガちゃんは顔を見合わせて。「「トリックオアトリート！」」　するとカラスは「ちょっと待ってろ」とキッチンに向かい、すぐに戻ってきました。　「はい、どうぞ」　そう言って二人の前に差し出されたものは。「わぁ、プリンですか」「かぼちゃプリンだ！」「カラスさん、ありがとうございます！」「これ、カラスとハクチョウさんで作ったの？」「あぁ、そうだ、自分で言うのもなんだけど、おいしいと思うよ」「ふふっ、カラスは二人がお菓子をもらいに来るのを本当は楽しみにしてたんですよ。今年はお菓子を逆に配るとおっしゃっていたから少ししょんぼりしてました」「なっ、そんなことないだろ」「カラスさん、プリンも作れちゃうなんてすごいです！」　何かあるのかなとは思っていたけど、サプライズにエナガはきらきらした目でカラスを見ている。うれしさとカラスにやられたというちょっとしたくやしさがふっとわいてきたけれど、エナガの笑顔を見ていると悔しさなんてどうでもよくなって。僕とエナガは遠慮なくプリンをいただくことにした。「あっ、おいしい」「うん、すっごくおいしいね」「喜んでもらえてよかったですね、カラス」「まぁな。たまにはこういうのもいいだろ」「あたしたちも食べよう」　ココアの温かさと素朴な甘さのパンプキンプリン、お父さんとお母さんと一緒に過ごせないことはさみしくて、日々の試練は厳しいものがあるけれど、こうやって大好きな人たちと過ごせることに僕とエナガは笑顔がこぼれていた。