ペアとして指名された相手と会った時の印象は……可愛い。だった。
ワタシとは対照的に身長が低くて華奢で色白で…物凄い厚着にフードを被っていて、そのフードには耳が付いていた…あれは彼女のコードネーム【フクロウ】に因んでイメージしたってカッコウさんが言っていたっけ。
それと………
「よろしくね、フクロウ！」
「…あ、……はい………よろしく、お願いします…」
物静かな人。
会話も全然続かないし、いつも猫背で自信無さげにワタシから顔を背ける事ばかり…。
そんなワタシたちペアの訓練中にフクロウのギフトが明らかになった。
どこかで潜んでいた魔獣が突然フクロウの背後に現れて、一緒に訓練をしていた別のトリたちが殲滅した時だった……
「……はぁはぁ…っ……」
「フクロウ?!」
切り刻まれた魔獣からは禍々しい霧の様な物がまとわりついていて、それから塵となって消えいく…その様子を呼吸を荒くしたフクロウが苦しそうに膝を付いて視線を外すことが出来ないかの様に見つめていた。
何度呼び掛けても反応は無く、胸元を強く握って激しい呼吸を繰り返すフクロウはそのまま意識を失った。
【追憶のギフト】
それがフクロウのギフト……。
一度見た物は決して忘れられない。
そう…彼女はこれから本物の戦場での出来事を忘れられなくなるんだと知った。
運ばれた医務室のベッドの上で説明を聞きながら、何かに納得した様なフクロウとは裏腹にワタシの中では複雑な思いでいっぱいになって、彼女の手を握っていた手に力が入ってしまった事には気付かなかった。
案の定、その日の夜からフクロウは寝不足が続いて…ミヤマさんから睡眠薬を貰っていた事も知って、ワタシはただ胸が苦しくて、【守りたい】って気持ちが芽生えた。
それからは本部からの指示で指名されたペア相手だから、と言う理由ではなく……ただ仲良くなりたいって気持ちが凄く大きくなった。
嫌われるような事はしたくないと思いながらも、距離を程々に取りつつ一緒に居る事を心掛けて…聞くよりも自分の事をいっぱい話した。
そんなある日、庭園で過ごしていた時だった。
「ねぇ………どうして、私なんかとのペアを受け入れたの？………こんな、陰キャ…なんかと…」
またそんな自分を卑下するような事をフクロウが聞いてきた。
確かにあの時はまだ正式なペアかどうかテスト期間ではあったけど…
「うーん……それはフクロウも、じゃないかな？ワタシはアナタが良いって思っただけだよ？」
「……私は……」
少なからずワタシはフクロウに嫌われてはいないと確信してた。
なんて言うか…たまに怯えてる様に見えていた彼女の言動はどこか憧れの様にも見えて……。
近づきたいけど、どこか遠慮してる感じ。
それでいていつもワタシを見てくれていたから、初任務の時にワタシの違和感に気付いてくれた。
「心配かけて、ごめんね…」
「ううん……その…フラミンゴが傷付くのは嫌だし……その、忘れられないから…もっと悩んじゃう………」
ワタシのギフトの詳細を知った後から声を掛けてくれる事が増えたのもその証拠だと思った。
色の見え方に滅入ってしまった時は、そっと寄り添っていてくれた事があったし…。
調査任務の時だって…
「…そこ、足場悪いから…気を付けてね…」
「あっちの大きな英語で書いてある看板の向こう側は指定外になるから……行かなくても、大丈夫だと思う…」
色の失ったワタシの視界では見えずらい場所もフクロウが誘導してくれたり、魔獣との距離感が危うくなった時も即座に援護射撃を決めてくれるようになって……その後は直ぐに駆け付けて「大丈夫だった?!」っていつもより少し大きめの声で心配の言葉をくれたり、汚れを払ってくれたり…。
そう、彼女は優しい。
そんな優しさを向けてくれる彼女に何も思わない訳が無かった。
同行した他のトリたちへの配慮もしっかりしているし、援護の時のあの表情も…かっこいい。
調査レポートもよくミヤマさんに褒められているのを見ると誇らしくも思った。
そう、少しずつだけどフクロウは変わっていた。
でも、まだ【仲良し】には遠くて……CAGEに戻れば……
「それじゃあ……あの…私、レポート書くから……」
「あっ、じゃあ一緒に…」
「部屋に戻りますーー！」
逃げられちゃう。
どうにかフクロウともっと仲良くなりたい。
そんな気持ちばかり膨らんで、ツバメに誘われたお茶会でたまに弱音を吐いたりしちゃってた時だってあった。
「そう言えば以前、フクロウさんにリクエストされた曲があったのですが…」
「曲？」
「えぇ……」
「フクロウがかい？珍しいね。どんな曲だったんだい？」
「えっと、なないろラズルダズルと言うアイドルの曲なんですけど…」
まさかのハクチョウから教えてもらった情報。
フクロウはその【なないろラズルダズル】と言うアイドルが好きなのか……。
アイドル………。
音楽………。
「演奏を終えると、凄く嬉しそうな表情をしていらしたので……実は私も、好きなので…もっとお話を…」
「それって、踊れたりしないかな?!」
ちょっと勢い余ってハクチョウに詰め寄ってしまった拍子にテーブルの上の食器が小さくだけど音を立ててしまった。
でも、そんな事も気にしていられない位にワタシは舞い上がってしまっていた──。
もし、その曲を踊れたら……フクロウともっと仲良くなれるかも?!
そんな思いでいっぱいになったから…。
「どうやら、良い案が浮かんだようだね」
ツバメが隣で微笑んでいたから、ワタシは今までに無いくらい頬が緩んでしまった。
部屋に戻ってからはハクチョウに教えてもらった曲の動画を何度も見てダンスの練習をした。
ダンスは元から得意だったから、同じアイドルの他の曲もいくつか覚えようと動画を漁って……フクロウの笑顔が見られるなら、特技を活かさない手は無かったんだ。
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「…帰ってゲームがしたい」
「………ゲームってワタシも出来るかな？」
たまにフクロウが呟いている言葉を拾って声を掛けた時だった。
「あの……良かったら、一緒にゲーム……する？」
「えっ？……良いの？」
「あ……いや………あの、全然嫌だったら、その…」
「やりたい！」
思わぬお誘いに乗らない訳も無く、誘われたのが凄く嬉しくてついフクロウの手を握って飛び跳ねちゃうとフクロウはオドオドしちゃってた。
「あわわ………」
「あー、ごめんね。びっくりしちゃった？」
「ううん…大丈夫」
その後任務から戻って、就寝までの身支度を終えるとワタシはフクロウの部屋へと向かった。
何度かお邪魔した事があっても、何故かそのドアをノックする時は毎回緊張する。
小さく深呼吸をして……
(…………ん？なんか、音楽が聞こえる)
微かに聞き覚えのある曲がフクロウの部屋から響いてくる。
多分【なないろラズルダズル】ってアイドルの曲。
動画でいくつか見た中の一曲だ。
ハッキリと聞こえる訳では無いけれど、リズムとかが何となく…。
コンコン─
ノックをした瞬間に音が止むと、しばらくしてドアが開かれた。
「あ…いらっしゃい…」
(……可愛い)
ひょこっと顔を出したフクロウの上目遣いに、さっきまでの心音がぶり返してきてワタシの中で？マークが浮かぶ……。
「お邪魔します、フクロウ！」
相変わらず部屋でもフードを被っているフクロウの後ろ姿も凄く可愛く見えて、フワフワした気持ちで後を追うように部屋に入るとベッドの上の端末に目が向いた。
あれで聴いていたのか、見ていたのか…。
「ねぇ、フクロウ…」
「な………なに？」
「今、音楽聴いてたよね？」
「えっ?!…………あ、あの……えっ……と」
少しずつだけど、フクロウが夢中になっているゲームの話しを良くするようになってきたけど…ハクチョウから教えて貰ったアイドルの話しはほとんど聞くことは無くて…
「何を聞いていたのか知りたい！て言うか…ワタシ、フクロウの事をもっと知りたいよ！」
少しでも怖がらせないように、身をかがめて視線が合うように…この気持ちを伝えたくてフクロウの両手を包み込むように握ると何故か自分の心臓の鼓動が早くなっていった。
また逃げられちゃうかもしれない…嫌われちゃうかもしれない。
それでも、フクロウの存在がワタシの中で大きくなっていったのは紛れもない事実で…いつまでもこんな距離感が嫌だったから。
「……えっと………」
するりとフクロウの手がワタシの手からすり抜けると、そのままフクロウはベッドに放られていた端末を手にしてベッドの縁に膝を抱えて座った。
「…ちょっと、待ってね……」
そう言って端末を操作し始めたフクロウの隣に腰掛けようと思ったけど、背けられた時にフードで顔が全く見えなくなるのを避けたくてデスクの椅子を引いてそばに腰掛ける。
『〜〜〜〜♪』
「あっ！やっぱり！」
「っ?!………え、あの……もしかして、知ってる…の？」
端末から流れるその音楽は以前ハクチョウから教えてもらった曲では無かったけど、同じアイドルの曲だった。
ワタシが知っている範囲は僅かなモノだけど、それはフクロウが教えてくれたら嬉しいなって思っていた。
だからハクチョウから教えて貰った……と言う事は伏せて。
「…友達から教えてもらって、曲は知ってるんだ！」
「っ！………えっと、この人たちは【なないろラズルダズル】って名前で…アイドルなんだけど、ラズルダズルって…」
フクロウの切れ長の瞳が見開かれた瞬間に激しく端末の画面を叩いては何度も画像を見せてくるその姿は構ってもらえて喜ぶ子供みたいで思わず微笑んじゃう。
どこか興奮した様子で色々な音楽を流してはフクロウのお気に入りポイントや、動画でのダンスシーンでの萌え？ポイントとかをいつもとは比べ物にならない程の口数で話してくれる。
好きな物に対してのこの熱意に、どこか嫉妬？の様な……モヤモヤした気持ちが湧いていた。
『〜〜〜♪』
「あ、この曲………」
「この曲はね…」
「ワタシ…これ踊れるよ」
「………え？」
フクロウの手の中の端末を覗き込んでいたワタシが視線を上げるといつもは影を帯びた端麗な顔がだんだんと真っ赤に染まり、口元が紡がれて……
「…フクロウ？」
「す、凄い！フラミンゴ、ダンス踊れるの?!」
「う、うん……ダンスは得意だから、練習すれば踊れるよ！」
「…凄い、そんな………え、こんな可愛くてスタイルも良くて優しくて超絶美少女のフラミンゴが…ななダズの曲を踊れるなんてっ………チート、いや私へのバフだぁ………」
端末で隠された口元から何となく聞こえる小さな声で、何だか凄い事を言われて…こっちまで顔が赤くなりそうだったけど、フクロウが喜んでくれているのが伝わってくるのが嬉しかった。
やっぱり、覚えて良かったと思えたと同時に心の中で教えてくれたハクチョウに感謝する。
もっとフクロウの好きなモノを知ったり、覚えたりすれば【ワタシをもっと見て】くれるかな…？
「えっと………この曲なんだけど…」
「うんっ」
「これも…踊れたり、する？」
「わぁ、可愛い！…うんっ！じゃあ、この曲も覚えたら見せてあげるね！任せて！」
アピールの為のピースサイン。
アナタの好きな曲なら、どんな曲でもワタシがしっかり魅せてあげる！なんて。
「…ラズルダズルってね……【きらびやかで人の目を眩ませる】って意味があって……まるでフラミンゴみたいだね！」
そんな事を今までで見た事のない程の笑顔でフクロウが口にした途端、色を失っているはずのワタシの瞳には一瞬だけどキラリと光るモノが見えた気がした。
そんなの気のせい…のはずなのに、と視線を落とすといつの間にかワタシの手は握られていて、片手で端末を操作しながらニコニコとたくさんお話しをしてくれている彼女の顔をじーっと見つめる。
ドキドキドキドキドキ………。
自分の心臓の音がやけに煩く感じて……あれ、なんだろ？と思考がぐるぐる…。
もしかして……なんて気持ちからだんだんハッキリしてくる……。
ずっと見たかった笑顔…ワタシだけに向けて欲しいと言う邪な想い…怖がりだけど勇敢な所もあって、優しくて聡明で…ワタシが守りたいと思った可愛い人。
あぁ……ワタシはきっと【恋】をしたんだと気付いた。
だけど今は、【もっと仲良くなる事】を優先的に…。
大切なペア相手。
傷付く所を見たくないから…。
絶対に守りたい…二人で生き残りたいと本気で心から思ったんだ。
いつか、アナタの【色】を知りたいから─。
END
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【クスミ】
分かりません！(大声)
こぼれ話を拝見してから思いつくままに書いていて、こっちが頭ぐるぐるしちゃいました💦
だけど、どんな状況でもフラミンゴちゃんはフクロウに【恋】をして欲しいな…と言う想い😭🙏
幼い頃から一緒だったから恋をした←と言う理由では無いだろうと言う解釈です🫠
仲良くなるまで…なんて、フラミンゴちゃんが頑張るでしょうよぉ!!!!!!!!!!💪
どうもぐちゃぐちゃですが、ありがとうございました🙇‍♀️